個人知識管理(PKM)サービスを「知能増幅(IA)サービス」に発展させ,まずは Google に代表される検索演心と,Facebook に代表される SNS からいわゆる GAFAM を切り崩す……これがデライトの成長戦略だ。
既存の SNS に対する「KNS」(knowledge networking service)という概念については比較的よく語ってきたが,既存の検索演心に対する「全知検索」(full-knowledge search)については十分に語ってこなかった。デライトを使い始めた人がまず戸惑う部分でもあるので,考え方だけ簡単に説明しておきたい。
全知検索というのは,各輪郭に付けられる知名(輪郭名)を対象とする検索のことだ。一般に「ページ名」などと呼ばれる部分を主な検索対象とするわけで,一見不便なようにも思えるだろう。
ただ,輪郭同士の関連付けの柔軟性を利用することで,慣れてしまえばさほど問題なく,面白い検索体験が出来るようになっている。検索語から繋がる情報を手作りしているような感覚とでも言えばいいのか,これは開発者である私にとっても意外なことだった。
実は,デライトの基礎になっているデルンという CMS が実用化した当初,当たり前のように全文検索(full-text search)を基本にしていた。しかし,使い込んでいるうちに,これはこれで問題があることに気付いた。
デルンは,これまでに無い手軽さで大量の情報を相互に結び付けられるように設計された。頭の中にある情報を,輪郭同士の立体的な入れ子関係で表現する。その関係をひたすら作っていくことが使い方の基本だ。
ある言葉について検索した時,その言葉について何を考え,それが何と結び付いているのか,これがまずデルンの検索で得たい情報になる。ところが,全文検索では余計な情報が引っかかり過ぎてしまう。少し言及しただけの輪郭も引っかかるので,それを一覧でざっと見てからその検索語について新しく描出(投稿)するかどうか考える必要がある。これは,デルンの使い方を考えると明らかに遅かった。
そこで,いったん知名だけを対象にしてみた。すると,最初にイメージした検索語を打ち込んで,それが有るのか無いのか,瞬時に分かるようになった。その知名を持つ輪郭に関連する輪郭を関連付けていく,というデルンにとって本質的な作業と非常に相性が良いことにも気付いた。
これを用者の認知に基いた全く新しい検索手法として「全知検索」と名付けたわけだ。「全てを知る」と見せかけて,実は無知を自覚させるという「無知の知」的な皮肉を感じさせるところも気に入った。
全文検索は本文にある情報を検索出来るが,逆に言うと,本文に無い情報は検索出来ない。
例えば,画像のようにそもそも文字情報を持たない献典,詩のようにあえて直接的な表現を避けた文章,内容を書き換えたくないがこの検索語で引かっかって欲しいという古い文章……こういったものにも,全知検索であれば検索の道筋を作ることが出来る。
Google 検索ですら長年解決していない検索ノイズの問題にも有効な手段となりうる。
これまでの検索というと,機械が抽出した情報から,人間が要らないものを指定していくという,いわば「ブラック リスト検索」だった。全知検索では,最初から人間が結び付けたい情報を指定しておく。いわば「ホワイト リスト検索」だ。
……全知検索の考え方は大体こんなものだ。
ただ,デライトでも全文検索を実装しないと決めているわけではない。補助的にあれば便利なのは間違いないので,何らかの手段で全文検索も出来るようにはするつもりだが,あまり優先順位は高くない。
結局,慣れてしまうと全知検索でも十分引っかかりやすいように書くようになるし,現状,誰よりもデライトを使い込んでいる開発者があまり必要を感じていないのだ。
全文検索に無い利点がある上,全文検索と比べてはるかに低負荷で動き,慣れてしまえば全文検索が無くても困らない実用性がある。これはもう検索においてページランク級の一大発明と言っていいのではないかと思っている。
ウェブ検索という分野では,Google ですらページランク以上の革新を生み出せず,継ぎ接ぎの対策で検索品質を保っているのが現状だ。
全知検索には,かつてページランクがそうしたように,ウェブ検索を原理からひっくり返す可能性がある。