{ネット右翼}{オルト・ライト}{エリート主義}{社会}{希知主義}{鳴体論}{インターネット}{学問}{公開}{政治}(10)

{エリート主義はインターネットで自滅する K#F85E/2374-2A1C}

日本でも「ネット右翼」(ネトウヨ)という言葉が聞かれるようになって久しいが,インターネット上では世界的に右翼思想の影響力が拡大し続け,左翼勢力を圧倒しつつある。英語圏ではインターネットを活用した新世代の右翼勢力は「オルト・ライト〈alt-right〉として知られているが,日本での「ネット右翼」というのは,いわばそれの日本人らしい平和ボケ版だと言えば分かりやすいだろう。この場合の「ネット」にはまだ「仮想世界に限られた」,「甘えた」,「陳腐な」という含みがある。

それはともかく,不思議に思ったことはないだろうか。どちらかといえば左翼が好みそうなインターネットの世界が,なぜ右翼思想とこんなにも相性が良いのか。今日のインターネットを創り上げたのは,主にアメリカの一流大学研究機関,それらの出身者からなる企業群であり,その担い手の多くがいわゆるエリートで,つまり典型的な右翼像とは対極的な人々だ。彼らは比較的家庭環境に恵まれ,高度な知識を持ち,常識にとらわれることを嫌い,我先にと新しいことを求める。技術力があり,高度な発信能力もあるはずの彼らはなぜかインターネット上での存在感に欠けている。

面白いことに今の世界には,テレビ新聞等の旧来の鳴体メディア〉を左翼的な思想傾向にある人々が支配し,右翼的な思想傾向にある人々がインターネットでそれに対抗するという構図がある。

そもそも,生粋の左翼というのは昔からずっと少数派だ。その難解な思想にはいわゆるエリートでなければ理解出来ないものが多く,エリートはその定義からして少数派だからだ。その左翼が勢力として右翼に対抗出来たのは,教育程度の高さを背景とした「知的権威」に依るところが大きい。政治家官僚として,鳴体の作り手として,知識人文化人として,学校教員として……様々な場面で彼らは極めて強い発言力を得てきた。特に強い思想を持たない人々は,彼らの声に従うしかなかった。

この社会構造を,他でもない彼らエリート自身が生み出したインターネットが破壊している。テレビや新聞などその資源の有限性に意味がある鳴体は左翼的なエリート主義と相性が良く,誰もが等しい環境で発信出来るインターネットは右翼的な大衆主義反知性主義と結びついた。やがて,反知性主義という名の反知的権威主義が旧い知的権威を焼き尽くし,知性の焼け野原で人々が途方に暮れる時が来るかもしれない。その時こそ,反権威的知性主義としての「希知主義」が切実に求められる時なのだろう。

ソクラテスを見よ。知か無知かが選択肢の全てではない。