テレサ・テンが歌った『夜の乗客』(1975年)という曲がある。かなり前に買ったアルバムに入っていた一曲なのだが,まったく印象に残っていなかった。どぎつい演歌調というかムード歌謡調というかで始まる曲なので敬遠していたのかもしれない。
ところがこの曲,よく聴いてみるとカッコイイ。特にサビのリズムが良い。石川さゆりの『能登半島』(1977年)を連想したが,作曲家は同じ三木たかしだった。年代的にも70年代中ごろとかなり近い。
旋律こそさほど似ていないが,盛り上げ方など曲の構成は似ているので,好きな人はどちらも気に入るのではないだろうか。どちらかといえば『能登半島』の方が演歌臭くなく,ヒロイックなイントロからカッコイイので若者向きかもしれない。『能登半島』最大の魅力は石川さゆりの歌唱力,声の魅力を最大限に引き出しているところで,恐らく他の歌手がまともにカバーすることは不可能に近い。他の実力ある演歌歌手が歌っていても,やはり石川さゆりの記憶があると聴くに耐えない。もとの出来が良くて,ある程度の歌唱力があれば誰が歌ってもそれなりに聴けてしまう曲というのも多いが,『能登半島』ばかりは彼女の声なくして成り立たない作品だと思う。徳永英明も真っ青だ。
ところが,よく聴いてみると『夜の乗客』におけるテレサ・テンの歌い方は,ところどころ石川さゆりの歌い方に似ていて,声質も近いように感じた。もちろんテレサ・テンの方が先輩なのだが,曲の幅もずっと広くその印象は無かったので,これがちょっと意外だった。今更ながら,テレサ・テンの『能登半島』は聴いてみたかった。
どちらも知らないという人は,せめて『能登半島』ぐらいは聴いてみてほしい。いわゆる「演歌」嫌いの私も,この曲と『襟裳岬』(半演歌)はよく聴いている。