無人飛行機
第一生命保険が主催するサラリーマン川柳コンクールで得票数第一位となった一句「退職金 もらった瞬間 妻ドローン」がちょっとした批判を受けている。批判の要点は,「ドローン」が単に「ドロン(と消えた)」の言い換えに使われているだけで,意味がどこにもかかっていない,というものだ。一方で,何が問題なのか分からないという声も多いのが面白い。
個人的に,この句は批判者が言うほど見所が無いとは思わない。特に「妻ドローン」はそれ自体で面白く良いリズムを持っているので,この部分で得票数を稼いだのではないかと思う。ただ,ここの活かし方に問題があるように見えるのも確かだ。つまり,句全体の趣旨にドローンが出てくるような脈絡が無い。あれこれ深読み出来ないことは無いが,それも他の作品に比べて奥行きがあるとは言えない。言葉遊びにうるさい芸人だとここが気になるようだ。
例えば,「退職金 すべて注ぎ込み 妻ドローン」の類なら(語調は適当に整えるとして)私は「上手い句」だと思える。退職金を何かに注ぎ込んで妻がドロンと消えた,何に注ぎ込んだかはお察しの通り,という感じだ。ただ,これが「良い句」か,というとまた別問題かもしれない。まとまり過ぎていて面白味に欠けるとも言える。
「退職金 もらった瞬間 妻ドローン」が共感を呼んだ理由は,その悲哀と何よりも「脱力感」にあるのではないか,と思う。屈辱的な形で妻に逃げられた親父が,寂しい部屋で「妻ドローン」と呟く。ドローンという言葉は最近覚えたのだろう。そんな情景を思い浮かべてみると,これが言葉遊びとして全く上手くない親父ギャグに過ぎないことが,むしろ味わいになってくる。
川柳は詩であってゲームではないので,形式に拘って感情を伝えられなければ良い句とは言えない。その意味で,「妻ドローン」が過小評価されている感も否めない。