イスラーム関連の描線。
ファルサファ(falsafah)。ギリシャ語ピロソピアーに由来する。祖はキンディー。
イスラム・スコラ哲学ともいう。
バイト・アル・ヒクマを中心に,ビザンツ帝国経由でギリシャ語文献を輸入・翻訳した。
ただし,イスラームにおけるギリシャ哲学的要素は,後世の歴史観によって認識されたもので,当時は一つの系統的学問として意識されてはいなかった。
伝統的なカラーム (神学) と対立しながら,東方イスラーム哲学はガザーリーによって神秘主義に転換する。その後,西方に隆盛したイスラーム哲学は,イブン・ルシュドの死とレコンキスタによって終焉する。この末路はユダヤ哲学にも似ている。
中世スコラ学の成立に多大な影響を与えた。
アッバース朝第7代カリフ,マアムーンは文化振興に尽力し,830年にはバイト・アル・ヒクマを設立した。
ネオプラトニズム的,百科全書派的であった。この時代を通して,多数の著作・翻訳が行なわれた。
キンディー(801-866頃, アラブ人),ファーラービー (870頃-950),イヴン・スィーナー(980-1037, (羅) アウィケンナ, (英) アヴィセンナ),ガザーリー (1058-1111, Al-Ghazali, (欧)Algazel)……
ガザーリーによる神秘主義への転換により終息。
イベリアを中心とし,概ねアリストテレス主義であった。哲学と神学の関係を論じた。
イブン・バーッジァ (?-1138),イブン・トファイル(1105-1185),イヴン・ルシュド(1126-1198, (羅)アヴェロエス)……
最近,「イスラム国」を名乗る過激派組織(自称イスラム国)が国際的な関心を集めている。それに関する報道も活発だが,この「イスラム国」という呼称をほぼそのまま使用しているメディアが多い。もちろん,大手メディアでは最初に過激派組織と前置きすることが多いが,それでもやはり問題だろう。
特に,記事やテレビ ニュースの見出しなどでは過激派組織の自称であるということが省略されやすい。あるていど読者層を想定していることもあってか,インターネット メディアでは,本文中ですら何の説明もなく「イスラム国」という表記が使われていることが珍しくない。結果として,この「イスラム国」という呼称が広く流通してしまった。
こうなると,例えば「イスラム国」で検索した時に過激な報道ばかりが引っかかるようになる。従来,日本語で「イスラム国」といえば「イスラム国家」や「イスラム教国」を連想するのが普通だった。最近の検索エンジンは表記ゆれを自動的に補完するが,イスラム教に基く「イスラム国家」や,教徒の多い「イスラム教国」という検索語まで,自称イスラム国の話題に汚染されている。例えば,「イスラム国、イラクの女性人権活動家を公開殺害」(朝日新聞)とか「イスラム国 アルカーイダをしのぐ脅威」(MSN 産経ニュース)といった見出しが飛び込んでくる。
全ての見出しに「過激派組織」という前置きを含むのは,端的な表現をしなければならないニュースとして無理かもしれないが,せめて,例えば「自称イスラム国」という表記を原則とするぐらいは出来るはずだ。このあいだ「自称芸術家」なんて報道上の表現が話題になったが,こういう時こそ「自称」の出番だろう。
そんなことをしなくても,文脈で分かるだろうと思うかもしれないが,それは甘い。そもそもイスラム教についての一般的な理解がほとんどない日本では,イスラム教国に対して「不穏な国」という印象を漠然と抱いている人が多い。その上にこうした報道が連日あれば,徒に恐怖心を煽ることになる。報道にあたって,受け手に判断力があることを前提としてはいけないというのは,判断力に乏しく影響を受けやすい子供を考えれば分かるだろう。
同じイスラム教国でも宗派や政治的状況で態度の違いはあるが,エジプトでは「イスラム国」という名称を使わないようにと訴える運動が起きている。要は「一緒にしてくれるな」ということだ。なぜ日本や欧米,特に英語圏でここまで無神経な報道がされるのかといえば,「自分達には関係ないから」なのだろう。例えば,テロ組織が「仏教国」を名乗っていたら日本ではどう報道されるか,「キリスト教国」を名乗っていたらアメリカではどう報道されるか,と考えてみればいい。国内から猛抗議を受けるのは想像に難くないので,そんな名称はまず使えない。
何より悪質なのは,このような呼称を許しているのが無関心だけとはいえない,ということだろう。母集団を考えれば,過激派組織を「イスラム国」と呼んでいる人々の中に,イスラム教国一般への敵意を隠し持った者がいないとはとても言えないからだ。証拠の残らない状況で反イスラム主義者が便乗出来てしまう。
最近,こういう報道を見ていると報道の良心について考えてしまうとともに,なんだか,あの世の井筒俊彦にも申し訳ない気分になってくる。