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{最近,三船史郎が気になる K#F85E/2F2D}

最近,気になる俳優がいる。三船史郎である。

戦後日本,もとい20世紀の映画界を代表するといっても過言ではない俳優・三船敏郎の長男であるが,知らない人がほとんどだろう。それもそのはず。俳優として生きていくには,苦労の方が多かったのではないかと余計な憶測をしてしまうほど三船の名は重い。普通の人間なら,七光を通り過ぎて白飛びしてしまう。

もっとも,三船史郎の演技に対する評価は,一般的には低いようだ。あちこちで「大根」と書かれている。私はかなり以前から氏の存在を知っていたのだが,つい最近『バルトの楽園』で初めて演技を観た。最初は,「適当な劇団から適当に引っぱってきたんだろうな」と思うほど芝居下手に感じた。とにかく妙に力んだ演技をする人で,明らかに作品からも他の俳優からも浮いているのである。

ただ,観終わってしばらくすると,この作品で一番記憶に残っているのが氏であることに気付いた(次いで中山忍の可愛さ,國村隼ドイツ語。そこで調べてみると,三船史郎その人だったというわけである。

考えてみると,三船敏郎もしばしば「大根」と評されることがある。三船の魅力は圧倒的な存在感であって,理論的な意味における演技の巧拙ではないと。また,今でいう「空気を読めない人」であったことも有名である。どうしても場から浮いてしまう。記憶に残ってしまう。だから三船敏郎は世界的スターだったのかもしれない。同時代の演技派二枚目であり空気を読めてしまった仲代達矢とは,名俳優同士ながらも対照的である。

もしかすると,三船史郎は三船敏郎の精神を良くも悪くも純粋に受け継いでしまった稀有な俳優なのではないだろうか。氏の演技を少し観ただけで,そんな気がした。いまはまともに映画を鑑賞できる時間がなかなか取れないのだが,もっと出演作を観てみたい,という気にさせられている。

(敬称略)